アフガンはどこへ向かうのだろう。
混乱の極みにあるアフガニスタンから
ついに米軍が完全に撤退した、との報道があったが
それに至るまでの間、「Flightradar24」というソフトで
アフガンと、その周辺における航空機の動向を見ていた。
上はアフガニスタンの民間航空会社、
Kam Air(カーム航空)がマザリシャリフの空港から飛び立った所。
今までの平常時であれば
アフガンの民間機がアフガンを飛行するのは
ごく当たり前の光景なんだろうけれど、
これは2021年8月30日。
タリバンは8月14日には既にマザリシャリフを陥落させた、と
宣言していたし、イランの英字紙、Tehran Timesにて
August 27, 2021 - 22:6に掲載された記事からの引用によれば
"The spokesman for the Iranian Civil Aviation Organization (CAO)
announced on Thursday that Iran has accepted a request
that a number of planes from the private Afghan company,
Kam Air, to land in Iranian airports."
…これをざっくり訳すと
「イランはアフガニスタンの航空会社であるカーム航空が
複数の航空機をイランの空港に退避させたい、という望みを受け入れた」
との事なので、どんな事情があったのか知らないが
タリバン側が電撃的に侵攻を拡大させていく中で
最後の最後に、命懸けの避難だったのかもしれない。
Kam Airは、かつてアフガンで支援活動を黙々と行われていた
中村哲医師が銃撃により亡くなられた時、
機体の尾翼に中村氏の肖像画を大きく描いて
心から哀悼の意を捧げていたのが強く印象に残っている。
中村哲医師が1991年、診療所を作ったのを皮切りに
井戸を掘り、学校を作り、25kmにも及ぶ用水路を建設し
ついには用水路の周囲、約1万6千haもの地域が緑化され
約65万人の自給自足が可能になったアフガン。
今、彼らが長い年月をかけて地道に一歩一歩、
ようやく改善を積み重ねてきた国の状況において
彼が銃撃された事に対して深く悼みを感じる
優しい気持ちのある航空会社や人達が
一刻も早く逃げなければならないほどの状況に
陥ってしまったのだなぁ、と
KMF611が刻一刻とアフガンから離れて行く様を見て
強い虚無感を覚えた。
いちいち報道に載る事はないのだけれど、米軍はここに至るまで
「カブールの空港が占拠された」と報じられた後も
本当に期限ぎりぎりまで
常に複数のKC-135やKC-10(空中給油機)を展開させると共に
相当な機数のC-17(輸送機)でひたすらピストン輸送を繰り返していたし、
米軍に限らず西側諸国も、現地の救援活動に関して
できる限りの動きを見せていた。
もちろん全てがアフガンに関わるとは限らないだろうけれど
航空機のスクリーンショットをいくつか。
画像では「Combat Shadow II」となっているけれど
以前「Commando II」に改称されたように思う、
米空軍特殊作戦軍団 (AFSOC : Air Force Special Operation Command)
所属のMC-130J。
ヘリやティルトローター機への補給、
特殊部隊の輸送や支援等を行う特殊作戦機。
この機体も米空軍、
「Bombardier E-11A」としか表示されていないけれど
BACN(Battlefield Airborne Communications Node)
…戦域通信中継機、ごく簡単に言えば
空飛ぶWifiスポットのような役割の航空機。
ヨルダンあたりから発進したオーストラリア空軍のC-130J。
オーストラリアは英国から独立しているが、
今でも英国の王がオーストラリアの王であり国家元首なため
「Australian Air Force」の上に、
かつて国王から与えられた誇り高き「Royal」の称号が冠されている。
ピラタス U-28A。
米空軍だけど、ピラタス社はスイスのメーカー。
第1特殊作戦航空団に所属して、偵察や情報収集、監視や
地上部隊の支援などを行っているらしい。
F-UJCSは元々アビアンカ・ブラジル航空で使われていた機体で
同航空会社が2019年に運航停止した後
フランス空軍により買い取られたものらしい。
ドイツのラムシュタイン空軍基地からやってきた
シンガポール空軍のエアバスA330 MRTT(空中給油/輸送機)。
この機種は元のA330が燃料搭載量に大きな余裕を持っているため
空中給油機でありながら旅客仕様と同様
キャビンに最大300名の人員を乗せる事ができ、
さらに床下も貨物スペースとして利用する事ができるそうだ。
2021年9月2日現在、Flightradar24を見ても
もうアフガニスタンを飛ぶ航空機はいない。
ニュースでは逃げたくても逃げ切れなかった国民と民間人が
極めて多く取り残されている、とポツリポツリ報じているが
情勢の更なる悪化や泥沼化こそあれ
改善の兆しなど何一つ見えないまま、
結局ここもやがて香港やミャンマーと同じように報道も途絶え
あっという間に人々の意識から薄まって行くのだろう。
大統領は抱えきれないほどの札束を抱えて真っ先に逃亡し、
「何故戦いも逃げもせずじっと残っているのだろう」と
個人的にずっと不思議に思っていた
元大統領や議長、逃亡した大統領を批判していた側近など
元の権力側にいた一部の者達は、新たなタリバン政権でも
権力のトップレベルに位置するのであろう
12人の評議会メンバーに就任する事が
既に確約されている、というような報道も目にした。
21世紀になっても、力を持つ者達にとって
人の命や人生が紙切れよりも軽いのは
全く変わらないらしい。
自分は何もできない、だからこそ
せめてここに、書き残しておく。